採用活動において経歴詐称は、企業にとって極めて深刻なリスクです。虚偽の情報に気づかず採用すると、後々のトラブルや信頼失墜、無駄なコストにつながりかねません。
本記事では、経歴詐称を見分けるために企業が実践すべき4つのステップを詳しく解説します。リスクを最小限に抑えるためのチェック体制づくりをお考えの採用担当者の方はぜひ参考にしてください。
経歴詐称を見分ける4つのステップ

近年、応募者が履歴書や職務経歴書で経歴を偽る「経歴詐称」のリスクが高まっています。もし採用後に虚偽が判明すると、企業は不要なトラブルやコストを被るだけでなく、社内外で信頼を損なう可能性もあります。そこで今回は、人事担当者が押さえるべき「経歴詐称を見分ける4つのステップ」をご紹介します。いずれも基本的な手法ですが、丁寧に実施すればリスクを大幅に減らすことが可能です。
Step1:応募書類の精査
履歴書・職務経歴書でここを見る(学歴・職歴の整合性チェック)
まずは、応募者が提出する履歴書と職務経歴書をしっかり確認しましょう。特に以下のポイントが重要です。
- 学歴、職歴の矛盾
- 大学卒と書いているのに年度や年齢が合わない
- 在籍期間が極端に短い、あるいは空白期間が長いなどの不自然な点
- 転職回数が書類ごとに異なり、一貫性がない
- 役職や業績の不自然な誇張
- 新卒採用から数年しか経っていないのに「部長職」など飛躍した肩書き
- 短期間で大きな実績を上げたとしながら、具体性がなく説明があいまい
- 書式や内容の不自然さ
- 市販の標準的な履歴書に比べ、都合の悪そうな項目だけが省略された書式
- 書類間で勤務先の社名や在籍時期が食い違う
こうした矛盾に気付いたら、単なる記入ミスなのか意図的な虚偽なのか、面接などの次のステップで確認してください。書類段階で「少し変だ」と思う部分があれば、要点をリストにしておきましょう。
Step2:面接での検証
書類の疑問点を解消するために、面接では以下の点を確認することが有効です。長時間の追及ではなく、自然に質問を交える中で整合性をチェックしてください。
経歴を深掘りする質問例(具体的な業績や在籍期間を聞く)
- その実績を達成したときの苦労や工夫は?
- プロジェクトでの具体的な役割やメンバー構成を教えてください。
- 在籍期間中で特に印象的だった案件は何ですか?
もし実際に経験があるなら、応募者は自然とエピソードが出てくるはずです。逆に話が曖昧だったり、一貫性のない返答が続く場合は経歴詐称の疑いを持ちましょう。
応答から嘘を察知するポイント
- 質問を変えても回答の内容がブレず一貫しているか
- 具体的な数値やエピソードが自然に出てくるか
- 怪しい部分を聞かれた途端、過度に動揺したり話題を逸らそうとしないか
人によっては面接慣れしていて、取り繕うのが上手い場合もあります。そこで次のステップでさらに裏付けを取り、疑いが晴れない場合は確証をつかむ必要があるでしょう。
Step3:提出書類の照合
面接を経て最終候補者になった段階では、追加の証明書や公的書類を求めるのが一般的です。学歴や職歴、資格の真偽を客観的に確認できる手段として有効です。
卒業証明書・資格証の提出と確認方法
卒業証明書大学や専門学校を卒業した証明書で、正式な原本の提出を求める企業も多いです。もし「紛失してしまった」と言うなら、学校から再発行できるケースがほとんどです。頑なに提出を拒むようなら要注意です。
資格証明書語学試験やIT資格などは公式の合格証明書番号があることが多いです。発行元に照会すれば簡単に真偽を確認できる場合もあります。
雇用保険被保険者証・源泉徴収票で前職を確認
雇用保険被保険者証前職の会社名や入社日の情報が記載されるため、職歴に嘘がないか確認できます。提出を渋る場合は、その理由を丁寧に聞きましょう。
源泉徴収票退職した年内に新たな職場へ入社した場合、前職の源泉徴収票を提出するのが通常です。そこに記載された退職日や所得金額と、職務経歴書の内容が矛盾していないかチェックします。
上記の書類提出は、企業側が選考過程できちんと告知しておけばスムーズに進むことが多いです。「入社予定者には卒業証明書や資格証などを提出いただきます」と事前に伝えておくと、嘘を抑止できる可能性もあります。
Step4:内定前のバックグラウンドチェック
書類や面接だけでは見抜けないケースもあるため、最終的に第三者の力を活用するのが理想的です。外部機関に依頼しなくても、最低限リファレンスチェックやSNSなどで補足的に情報を得ることはできます。
リファレンスチェックの進め方(問い合わせ項目と注意点)
リファレンスチェックとは、応募者の前職上司や同僚など第三者に直接問い合わせて、人柄や実績を確認する方法です。実施する際のポイントは以下のとおりです。
- 本人の同意を得る候補者が拒否する場合は、その理由を聞いて判断しましょう。
- 具体的な項目を質問実際に担当していた業務の範囲 チーム内での評価やコミュニケーションスタイル 成果やトラブルに関する情報
- 複数の視点を確認一人だけでなく、可能なら複数の関係者から話を聞くと客観性が高まります。
SNSリスクチェック(公開情報の確認)
公開設定になっているSNSの投稿やプロフィールを確認し、履歴書と異なる職歴や不適切な言動がないかを探ります。特にLinkedInは職歴を詳しく記載しているユーザーが多く、履歴書と矛盾がないか見比べるのに便利です。ただしSNS調査には個人情報やプライバシーに配慮が必要で、正当な範囲を超えた収集や偏見につながる利用は避けなければなりません。
発覚時に行うべきこと
もし最終的に経歴詐称が判明した場合の対応は、大きく分けて「内定段階」と「入社後」によって異なります。
内定取消の通告手順と注意点
内定は法的には「労働契約の成立」と同等とみなされることがあります。そのため、経歴詐称を理由に内定を取り消す場合でも、企業側には正当な理由と手続きが求められます。具体的には以下の点を押さえてください。
事実確認と書面での通達
経歴詐称の証拠を集め、本人に確認の機会を与えたうえで、内定取消の理由を文書で明示します。
就業規則や応募要項との整合性
「学歴や資格の虚偽申告は採用取消の対象となる」といった規定があるかどうかを確認しましょう。
トラブル防止の事前策
内定前にできる限り調査を済ませることがベストです。内定を出す前に最終チェックを終えておけば、後々の紛争リスクを下げられます。
入社後発覚した場合の懲戒手続き
入社後に経歴詐称が判明した場合、通常は懲戒処分の検討となります。重大な詐称の場合、懲戒解雇につながるケースも少なくありません。
懲戒事由の明示
就業規則に「採用時の重要事項における虚偽申告」を懲戒事由として定めているかどうかを確認しましょう。
本人への弁明機会
一方的に処分を決めるのではなく、本人から事情を聴きとり、手続きの公平性を確保してください。
処分の相当性
詐称内容が企業に及ぼす影響が大きいかどうかを考慮する必要があります。あまりに軽微な誇張であれば解雇は重すぎると判断される可能性もあるため、慎重な検討が求められます。
バックグラウンドチェックはプロに任せるのがおすすめ

書類確認や面接、公式書類の照合である程度の裏付けは取れますが、どうしても抜け落ちる部分が出てきます。特に大切なポジションや専門性が問われる職種ほど、プロのバックグラウンドチェックを利用するメリットが大きいでしょう。
専門家による広範囲な調査
採用候補者の反社会的勢力との関係や犯罪歴など、企業が独自に確認しづらい項目までカバーしてくれます。
違法、不適切な調査の回避
個人情報やプライバシー保護の観点から、素人が深く調べようとすると法的リスクを伴います。専門機関なら適切な方法を熟知しており、無用なトラブルを避けられます。
費用対効果
後から不正が発覚し、解雇や再採用を余儀なくされるコストを考えると、プロへの依頼料は十分にリターンが見込める投資と言えます。
実際に経歴詐称があった事例
ある精密機器部品メーカーにおいて、50代のK氏が中途採用の最終候補に残りました。同社は僻地や海外にも製造拠点を持ち、経験豊富な管理職を求めていたのです。K氏は「製造業一筋、品質管理責任者の実績あり」「海外出張経験も豊富」と自称し、面接でも流暢な受け答えをして高評価を得ました。
しかし最終段階で行ったバックグラウンドチェックにより、実際にはK氏が数多くの短期アルバイトや無職期間を繰り返していたことが判明しました。さらに「品質管理責任者」という話はほとんど上司の受け売りであり、語学力もビジネスで通用するレベルには程遠いものだったのです。もし採用が決まっていたら、海外拠点での業務に支障が出て、会社側が大きな損害を被るおそれがありました。
最終的にK氏は内定取消となり、必要に応じて詐欺罪や私文書偽造罪の適用も検討され得る状況でした。会社としてはあらためて採用基準やバックグラウンドチェックの方法を見直し、社内での情報共有を徹底するきっかけにもなったのです。
バックグラウンドチェックの活用がおすすめ
経歴詐称への対策は、「応募書類の精査」「面接での検証」「公式書類の照合」「バックグラウンドチェック」の4ステップを踏むことで、かなりのリスクを低減できます。とはいえ、悪意ある応募者が巧妙に嘘をつくケースもあり、人事だけの力では限界があるのも事実です。特に重要ポジションの採用では、経歴の裏付けがしっかり取れないと企業側の損失が大きくなる可能性が高まります。
そこで、プロによるバックグラウンドチェックの活用を視野に入れることを強くおすすめします。外部の調査専門家であれば、法的リスクを回避しながら広範囲に調べられますし、結果的にトラブル回避やコスト削減につながるでしょう。経歴詐称を未然に防ぎ、適切な人材を安心して採用するためにも、今一度自社の採用プロセスを見直してみてはいかがでしょうか。