経歴詐称は解雇できる?解雇になった判例を紹介
経歴詐称は解雇できる?解雇になった判例を紹介

経歴詐称は解雇できる?解雇になった判例を紹介

採用後に「経歴詐称」が判明すると、企業は信用低下や訴訟リスクに直面します。特に「経歴詐称 解雇」という検索語句が示す通り、多くの採用担当者は懲戒解雇の可否と適切な手順を知りたいと考えているのではないでしょうか。本稿では主要判例と実務ポイントを整理し、採用担当者が取るべき行動を体系的に解説します

目次

経歴詐称とは?採用現場で問題となるパターン

経歴詐称とは、履歴書や面接で虚偽の情報を提示し、採用判断や労働条件の決定を誤らせる行為です。厚生労働省の「採用選考の基本的な考え方」によれば、応募者には真実を告知する義務があり、重要な事実を偽った場合は信頼関係の基礎を損なうとされています。

学歴詐称の具体例と影響

学歴詐称は最も一般的な経歴詐称の一つです。実際には高校卒業であるにもかかわらず大学卒業と偽るケースでは、初任給で月額3~5万円、年間36~60万円の差額が生じる可能性があります。逆に、大学院修了を高卒と偽った場合、本来の能力を活かせない配置となり、組織全体の生産性低下につながることも考えられます。

職歴詐称のパターンと企業リスク

職歴詐称には複数のパターンがあります。在籍期間の延長(実際は1年を3年と申告)、役職の誇張(一般社員を課長級と申告)、担当業務の虚偽(営業事務を営業職と申告)などが典型例です。IT企業での実例では、プロジェクトマネージャー経験を偽った社員により、納期遅延で数千万円の損害賠償が発生したケースも報告されています

資格詐称による法的リスク

資格詐称は企業に直接的な法的リスクをもたらします。宅地建物取引士、看護師、薬剤師など業務独占資格を偽った場合、企業自体が業務停止命令や罰則の対象となる可能性があります。建設業法では、主任技術者の資格詐称により営業停止処分を受けた事例も存在します。

犯罪歴の秘匿と業界別対応

犯罪歴の取り扱いは業界により大きく異なります。金融業界では金融商品取引法により、金銭に関する犯罪歴がある者の登録が制限されます。警備業では警備業法により、特定の犯罪歴がある者の就業が禁止されています。一方で、一般企業では前科があることのみを理由とした不採用は、更生の機会を奪うものとして問題視される場合もあります

経歴詐称を未然に防ぐ!採用プロセスの改善策

経歴詐称による損害を防ぐには、採用段階での予防が最も効果的です。日本労働研究雑誌の調査によれば、書類選考段階で詐称を発見できれば、採用後の対応コストを90%以上削減できるとされています。

書類提出時の確認ポイント

内定通知と同時に、卒業証明書、成績証明書、資格証明書の原本提出を求めることをおすすめします。提出期限は内定通知から2週間程度が適切でしょう。学校や資格発行機関への問い合わせには時間がかかるため、余裕を持った設定が重要です。また、提出書類のチェックリストを作成し、受領確認を徹底することで、後日のトラブルを防ぐことができます。

リファレンスチェックの実施方法

リファレンスチェックは、前職の上司や同僚から応募者の勤務実態を確認する手法です。個人情報保護法に配慮し、必ず本人の同意を得てから実施します。確認項目は在籍期間、役職、担当業務、退職理由などに限定し、プライバシーに踏み込まない範囲で行うことが重要です。外部委託する場合、費用は1件あたり3~10万円程度、期間は1~2週間が一般的です

面接での見極めテクニック

面接では、具体的な数値や固有名詞を含む質問により、経歴の真偽を確認できます。例えば「前職で最も成果を上げたプロジェクトの予算規模と期間を教えてください」「使用していたシステムの具体的な名称とバージョンは?」といった質問です。即答できない、あるいは曖昧な回答の場合は、追加確認が必要かもしれません

試用期間の効果的な活用

労働契約法上、試用期間は「解約権留保付労働契約」と解釈されます。この期間中に能力不足や経歴との不整合が判明した場合、本採用拒否という形で対応可能です。ただし、試用期間中であっても解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要となるため、評価基準を明確にし、定期的な面談記録を残すことが重要です

「重大な経歴詐称」と判断されるポイント

経歴詐称で懲戒解雇が認められるか否かは、詐称の重大性が鍵となります。最高裁判例(昭和48年)では、「重要な経歴を偽った場合」を懲戒解雇事由として認めていますが、何が「重要」かは個別判断となります

採用判断への影響度の評価基準

企業が求人票や面接で「必須要件」として明示した事項を偽った場合、重大性は極めて高いと評価されます。例えば、TOEIC800点以上を必須とする求人で、実際は500点だった場合などです。この判断では、求人票、面接評価シート、採用基準書などの証拠保全が重要となります。これらの書類は最低でも3年間は保管することをおすすめします。

企業秩序・信頼関係への影響評価

詐称により企業の信用や秩序が害される程度も重要な判断要素です。経理職での横領前科の秘匿、人事職での労働法違反歴の秘匿など、職務との関連性が高い詐称ほど重大と判断されます。また、管理職や専門職など、高度な信頼関係が求められる職種での詐称も、より厳しく評価される傾向があります

勤続年数と更生の評価

判例分析によれば、勤続年数が10年を超える場合、解雇無効となる可能性が高まります。長期間にわたり問題なく勤務していれば、「信頼関係は実質的に回復している」と判断されるためです。一方、入社後1年以内に発覚した場合は、信頼関係が構築される前の段階として、解雇が認められやすい傾向にあります。

解雇が有効・無効になった判例

経歴詐称に関する判例は、懲戒解雇の可否を判断する上で貴重な指針となります。ここでは代表的な判例を分析し、実務での判断基準を整理します

解雇有効とされた代表例

神戸製鋼所事件(大阪高裁 昭和37年)

小学校卒業を中学校卒業と偽って入社した従業員に対する懲戒解雇が争われた事案です。裁判所は、学歴が賃金体系に直結しており、真実を知っていれば採用しなかったことが明白であるとして、懲戒解雇を有効と判断しました。さらに、労働基準監督署の除外認定により、解雇予告手当の支払いも不要とされました

グラバス事件(東京地裁 平成16年)

システム開発経験3年と偽って採用されたSEが、実際には未経験だったことが判明した事案です。プロジェクトの大幅な遅延により顧客に損害を与え、会社の信用を著しく毀損したことから、懲戒解雇が有効とされました。裁判所は、専門職における経験詐称の重大性を強調しています。

解雇無効とされた代表例

マルヤタクシー事件(仙台地裁 昭和60年)

10年以上前の業務上横領による前科を履歴書に記載しなかったタクシー運転手の事案です。裁判所は、前科から相当期間が経過し、その後の勤務態度が良好であったことを重視し、懲戒解雇は過重であると判断しました。むしろ、更生の機会を与える観点から、解雇は社会通念上相当でないとされました。

西日本アルミニウム工業事件(福岡高裁 昭和55年)

大学を休学中の求職者が、大学入学の事実を申告せずに高校卒業として採用された事案です。企業側も採用面接時に学歴について特に質問せず、その後10年以上にわたり良好な勤務を続けていました。裁判所は、学歴を重視しない採用方針であったこと、長期間の良好な勤務により信頼関係が構築されていることから、懲戒解雇は社会通念上相当でないと判断しました

判例から導かれる実務上の指針

これらの判例を分析すると、以下の要素が解雇の有効性判断で重視されることがわかります。

    

第一に、詐称内容と職務の関連性です。職務遂行に直接影響する詐称ほど重大と評価されます。

    

第二に、企業が被った実害の有無と程度です。具体的な損害が発生している場合、解雇が認められやすくなります。

    

第三に、発覚までの期間と勤務態度です。長期間良好な勤務を続けていれば、解雇は困難となります

懲戒解雇・普通解雇・退職勧奨 最適手段の選び方

経歴詐称が発覚した際、どのような対応を取るべきかは、詐称の内容、程度、企業への影響などを総合的に判断して決定する必要があります

各手段の特徴と選択基準

対応手段 法的根拠 企業側のリスク 従業員への影響 推奨される使用場面
懲戒解雇 就業規則の懲戒事由 訴訟リスク高、敗訴時の復職・賠償リスク 退職金不支給、再就職困難 重大な詐称かつ実害が大きい場合
普通解雇 労働契約法16条 解雇予告手当の支払い必要 通常の退職扱い、退職金支給 能力不足が明白だが懲戒には至らない場合
退職勧奨 当事者間の合意 訴訟リスク最小 自己都合退職として処理可能 長期勤続者、訴訟回避を優先する場合

懲戒解雇を選択する際の注意点

懲戒解雇は従業員にとって極めて重大な不利益処分であるため、慎重な判断が必要です。就業規則に「重要な経歴の詐称」が懲戒事由として明記されていることが前提となります。さらに、詐称により採用判断を誤らせ、企業に実害を与えたことを立証する必要があります。手続き面では、弁明の機会の付与、懲戒委員会での審議など、就業規則に定められた手続きを厳格に履行することが不可欠です

普通解雇・退職勧奨の実務的メリット

普通解雇は、能力不足や適格性欠如を理由とする解雇です。懲戒解雇と比較して立証のハードルが低く、解雇予告手当を支払えば即日解雇も可能です。一方、退職勧奨は話し合いによる合意退職を目指す手法で、訴訟リスクを最小化できます。特に勤続年数が長い従業員や、詐称の程度が軽微な場合は、退職勧奨による円満解決が望ましいでしょう

実務フロー:事実調査から解雇通知まで5ステップ

経歴詐称への対応は、適正な手続きの履行が成否を分けます。以下の5ステップに沿って、慎重かつ迅速に対応することが重要です。

  • ステップ1:初動調査(発覚から3日以内)

詐称の疑いが生じたら、まず事実関係の初期調査を行います。履歴書、職務経歴書、面接記録などの社内資料を収集し、矛盾点を洗い出します。この段階では本人への接触は避け、客観的証拠の収集に専念します。調査チームは人事部門を中心に、法務部門、当該部署の管理職で構成し、情報管理を徹底します

  • ステップ2:外部調査と証拠収集(1~2週間)

初動調査で疑いが強まった場合、外部機関への照会を行います。学歴については出身校への卒業証明書の再発行依頼、職歴については前職への在籍確認を実施します。個人情報保護の観点から、採用時に取得した同意書の範囲内で調査を行うことが重要です。この段階で収集した証拠は、原本とコピーを分けて保管し、改ざん防止措置を講じます

  • ステップ3:本人ヒアリング(証拠収集後1週間以内)

十分な証拠が揃った段階で、本人へのヒアリングを実施します。呼び出しは「重要な確認事項がある」程度にとどめ、詐称を前提とした態度は避けます。ヒアリングは必ず複数名で行い、可能であれば録音することをおすすめします。質問は事実確認に徹し、なぜ虚偽の申告をしたのか、その動機や背景も丁寧に聞き取ります

  • ステップ4:弁明機会の付与(ヒアリング後1週間)

労働契約法および就業規則に基づき、正式な弁明の機会を設けます。ヒアリングとは別に、書面による弁明書の提出を求め、7~10日程度の提出期限を設定します。弁明書では、事実関係の認否、詐称に至った経緯、情状酌量すべき事情などを記載してもらいます。提出された弁明書は、処分決定の重要な判断材料となります

  • ステップ5:処分決定と通知(弁明書受領後2週間以内)

懲戒委員会を開催し、収集した証拠と弁明内容を総合的に検討します。処分の決定にあたっては、詐称の重大性、企業への影響、本人の反省度、過去の勤務態度などを考慮します。処分が決定したら、処分通知書を作成し、処分理由を具体的に記載します。通知は対面で行うことが望ましいですが、本人が出社を拒否する場合は内容証明郵便で送付します

バックグラウンドチェックの活用による予防強化

経歴詐称による損害を防ぐ最も効果的な方法は、専門機関によるバックグラウンドチェックの活用です。日本では近年、採用リスク管理の観点から導入企業が増加しています。

バックグラウンドチェックで確認できる項目

専門調査会社では、以下の項目について客観的な確認が可能です。学歴・職歴の真偽確認では、卒業証明書や在籍証明書を直接取得し、申告内容と照合します。資格・免許の確認では、発行機関への照会により有効性を確認します。犯罪歴・破産歴の調査では、公的記録を基に、業務に影響する可能性のある事実を確認します。前職での評価・退職理由については、本人の同意を得た上で、前職の上司や人事担当者へのヒアリングを実施します

導入のメリットと費用対効果

バックグラウンドチェックの導入により、採用リスクを大幅に低減できます。ある調査によれば、導入企業では経歴詐称の発見率が15%から3%に減少したという報告があります。費用は調査項目により異なりますが、基本的な学歴・職歴確認で3~5万円、詳細な調査で10~20万円程度が相場です。経歴詐称による訴訟コストや業務への影響を考慮すれば、十分な費用対効果が期待できるでしょう。

実施時の法的注意点

バックグラウンドチェックの実施には、個人情報保護法への配慮が不可欠です。必ず本人の明示的な同意を得て、調査目的と調査項目を明確に説明する必要があります。また、調査により取得した情報は採用判断のみに使用し、目的外利用は禁止されています。調査結果の保管期間も最小限とし、不採用者の情報は速やかに廃棄することが求められます

経歴詐称リスクを最小化する3つのポイント

経歴詐称への対応は、企業の信頼性と組織の健全性を守る重要な課題です。本稿で解説した内容を踏まえ、採用担当者が実践すべき3つのポイントをまとめます

第一に、予防体制の構築です。採用プロセスに証明書類の提出やリファレンスチェックを組み込み、詐称を未然に防ぐ仕組みを整備しましょう。特に重要なポジションや専門職の採用では、バックグラウンドチェックの活用も検討することをおすすめします

第二に、就業規則と手続きの整備です。「重要な経歴の詐称」を具体的な懲戒事由として明記し、処分手続きを明確化しておくことが重要です。また、定期的な規則の見直しにより、最新の法令や判例動向を反映させることも忘れてはいけません。

第三に、専門家との連携体制です。経歴詐称への対応は法的リスクを伴うため、労務に詳しい弁護士や社会保険労務士との連携が不可欠です。また、バックグラウンドチェック会社との協力により、効率的かつ確実な調査体制を構築できるでしょう。

これらの取り組みにより、経歴詐称リスクを大幅に低減し、健全な組織運営を実現することが可能です。まずは自社の採用プロセスを点検し、必要に応じて業者への相談を検討してみてはいかがでしょうか。当サイトではバックグラウンドチェックを行う企業をまとめ、比較しております。業者を検討している方はぜひ参考にしてください。

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