中途採用で経験豊富なエンジニアを迎えたはずが、実務に入った途端スキル不足が露呈しプロジェクトが立ち往生、、そんな経歴詐称トラブルが近年増えています。
2025年上半期は発覚件数が前年比141%に急増し、採用失敗の影響は納期遅延や追加コストへ直結します。
採用担当者がミスマッチを防ぐためには、経歴詐称の仕組みを理解し見抜く技術と対処法を体系的に把握することが欠かせません。
目次
エンジニア採用に潜む落とし穴
エンジニア採用における「経歴詐称」とは、履歴書や職務経歴書、面接で伝える内容に意図的な虚偽が含まれ、企業が採用を判断する前提を揺るがす行為を指します。
典型例は経験年数の水増しや実務未経験技術の“経験あり”申告です。
SES契約では未経験者を経験者として客先常駐させる悪質なケースも報告され、被害規模が拡大傾向にあります。経営サイドが期待して投資した人件費が無駄になるだけでなく、納期遅延に伴う違約金や顧客離脱リスクにも直結するため、企業ブランドにもダメージを与えかねません。2024年の報道では中途採用者の約3割で何らかの経歴詐称が判明したとの調査結果が出ています。
経歴詐称がもたらす主な損失
損失カテゴリ | 具体的影響例 | コスト試算の目安* |
---|---|---|
プロジェクト遅延 | 要件再調整・再採用で平均2〜3カ月遅延 | 月額人件費×人員×遅延月数 |
品質低下 | バグ修正工数増、追加テスト実施 | 想定外テスト費+残業代 |
契約トラブル | 納期延期による違約金、信頼失墜 | 契約金額の5〜15% |
社内機会損失 | 本来アサインすべき人材が別案件に回せず | 見込み利益の逸失 |
*自社の契約条件で算出が必要
表のように、経歴詐称は直接費用だけでなく二次的ロスを伴うため、早期発見・防止が不可欠です。
採用担当者はまず「経歴詐称が想像以上に身近なリスク」であると認識し、後続の章で示す見抜き方や対応策を活用して防衛線を築くことを検討してみましょう。
実際にあったエンジニア経歴詐称トラブル
経歴詐称は統計上“たまに起きる”程度ではありません。2024年の労働紛争データでは、IT・情報通信業で発生した採用関連トラブルのうち約32%が経歴詐称に起因していました。ここでは実例を二つ紹介し、採用担当者が注意すべきポイントを整理します。
ケース1:未経験なのに「経験5年」 現場で通用せず契約解除に
ある開発会社はSES経由で「Java経験5年」のエンジニアを月額85万円で受け入れました。
着任後まもなく基本設計レビューで質問に答えられず、ペアプログラミングも進みません。
二週間で「実務経験ゼロ」と判明し契約解除へ。書類上の経歴はSES企業が作成した虚偽スキルシートでした。
- 要員交代までの待機コスト:約160万円(2カ月分)
- 遅延に伴う顧客向け値引き:契約金額の10%
- 再採用活動コスト:求人広告と面接人件費で約45万円
解除後に損害賠償請求を検討しましたが、取引継続の事情で泣き寝入りになりました。
ケース2:年齢もスキルもウソ 組織ぐるみの詐称事件
外国籍エンジニアを多数抱えるA社は、年齢・学歴・職歴をまるごと改ざんした経歴書で大手SIerに人材を派遣していました。
顧客がリファレンスチェックを行った際、記載企業が存在しないことが発覚し全員の入場パスが停止。
A社は派遣契約を解除され、違約金3000万円を支払う結果となりました。
- 社内での二重チェックを徹底する
- スキルシートは本人作成分と企業作成分を比較する
- リファレンスチェックを定常プロセスに組み込む
- 違約条項を契約書に盛り込み損失を最小化する
採用担当者はこれらの教訓を自社フローに反映し、同様の損失が生じない仕組み作りを検討しましょう。
エンジニアはなぜ経歴を盛ってしまうの?
経歴詐称の背景には、個人の心理と業界構造の両方があります。動機を理解すると面接時の質問やフォロー策を組み立てやすくなります。
スキルに自信がない不安
実務経験が浅い応募者は「要件に届かず落ちるかもしれない」という恐れから経歴を水増ししがちです。ポートフォリオが乏しいフリーランスほどこの傾向が強まります。
求人要件のプレッシャー
「経験3年以上」「必須スキル◯件」など高いハードルが経歴の上乗せを誘発します。採用条件を見直し、ポテンシャル採用枠を設けると虚偽申告を抑制できます。
会社からの強要
一部SES企業は営業利益を優先し、未経験者に虚偽経歴を指示します。応募者が悪意なく加担している場合も多いので、前職環境をヒアリングする姿勢が重要です。
エンジニア経歴詐称のよくある手口
応募書類での虚偽はパターンが決まっています。代表的な四つの手口を把握すれば、見抜く視点を絞り込めます。
- 経験年数の水増し:研修期間を「実務経験」と換算して三年増やす。
- 未経験技術の偽装:触ったことのないクラウドサービスを「構築経験あり」と記載。
- 資格・学歴の詐称:受験申込だけで「合格」と記す、専門学校卒を大卒とする。
- 成果の過大アピール:チーム開発の小タスクを「PMとして全体推進」と強調。
時間が限られる書類選考では、それぞれに着目した確認ステップが必要です。
手口別に着目すべきチェックポイント
手口 | 書類での兆候 | 面接での深掘り例 |
---|---|---|
年数水増し | プロジェクト期間と在籍期間が不一致 | 具体的な担当工程の時系列説明を求める |
未経験技術偽装 | 技術キーワードが多岐に散らばる | 「習得に苦労した点は?」を質問 |
資格・学歴詐称 | 証明書の提示なし | 原本提出を依頼し取得経緯を聞く |
成果過大 | 大規模PJを短期で完結と記載 | 貢献度を定量化させ矛盾を探す |
この表をリストとして面接ガイドラインに転記すると、採用担当者の目線が統一できます。
経歴詐称を見抜くには?
詐称を察知する方法は段階ごとに異なります。以下の五つを採用プロセスに組み込み、重層的な検証を行いましょう。
職務経歴書の矛盾や不明点を洗い出す
書類は一次フィルターです。
職歴の重複月、説明のない空白期間、在籍企業の規模と役職のバランスなどを一覧で比較し、矛盾があればマーカーで可視化します。
その上で面接の質問リストを準備すると確認漏れを防げます。
資格・学歴の証明書を提出してもらう
最終面接前後で公的証明書を依頼しましょう。
取得日が直近すぎる、発行元が存在しないなどの違和感は詐称の強いサインです。
証明書提出を応募要項に明記すると、虚偽申告の抑止効果も期待できます。
過去の成果物やポートフォリオを確認する
成果物の提示は技術力の客観証明になり、他人の成果を語る応募者は詳細説明で破綻します。GitHubやアプリストアURLはもちろん、非公開案件なら画面キャプチャやコード片でも構いません。
経歴について具体的に深掘り質問をする
行動事実を時系列で掘り下げると、経験者は詳細を即答できますが、詐称者は抽象的な説明に終始しがちです。「最大の失敗は何か」「そのとき取った再発防止策は」といった質問が有効です。
専門知識を確かめる技術的な質問を投げかける
ホワイトボードの口頭設計やオンラインコーディング試験は、知識の深さと実装力の両方を計測できます。要件に直結したミニ課題を出すことで、即戦力かどうかを判断しやすくなります。
- Codility:アルゴリズム力を自動評価
- HackerRank:多言語対応、採点基準をカスタム可
- Mettle:クラウド設計やIaC試験に強み
これらのサービスは時間と場所を選ばず実施でき、採用担当者の負荷を減らす効果があります。
経歴詐称が疑われるときの対処法
疑わしい情報を掴んだら、感情的に判断せず客観的事実を積み上げましょう。ここでは段階別に推奨プロセスを整理します。
詐称の可能性がある場合は追加面談を実施する
最初の確認方法は、疑問点を中心に再度ヒアリングすることです。面談では以下を意識してください。
- 矛盾点を指摘せず時系列で説明を求める
- 具体的な数値・成果を再提示してもらう
- 回答内容を詳細に議事録へ残す
追加面談で説明が明瞭なら誤解の可能性もありますが、回答が曖昧で矛盾が拡大した場合は、次のステップへ進みましょう。
周囲からヒアリングして実態を把握する
候補者が同意すれば、前職の上司や同僚にリファレンスチェックを行います。
在籍証明書と合わせれば、書類・本人・第三者の情報を三点照合できます。
また、社内の関係者にも「業務遂行能力にギャップはないか」「経歴どおりのアウトプットがあるか」を聞き取りましょう。
ヒアリング項目と確認先
確認項目 | 主な情報源 | 質問例 |
---|---|---|
在籍期間 | 前職人事担当 | 入退社日、雇用形態 |
役割と成果 | 前職上司 | 担当工程、KPI達成度 |
スキルレベル | 同僚・PM | 実装難度、レビュー指摘頻度 |
人物評価 | 社内現場 | 協調性、学習姿勢 |
表のように項目と質問をテンプレート化しておくと、担当者が変わっても評価軸を維持できます。
バックグラウンドチェックの活用もおすすめ
経歴詐称が判明した場合は内定取消・解雇も検討
確定した場合は就業規則や採用条件に基づいて粛々と対処します。
内定者なら速やかに取消通知、在職者なら懲戒手続きを検討しましょう。
処分前に本人へ弁明の機会を設けると、手続きの公正性を担保できます。
- 人事部と法務部で詐称度合いを評価
- 取締役会または懲戒委員会で処分案を決定
- 本人へ書面で通知し、返却物・機密情報を回収
- 社内外向けガイドラインを更新し再発防止を徹底
重大な虚偽は損害賠償の対象になります。契約書に「経歴詐称が判明した場合は賠償請求を行う」条項を盛り込むと、抑止力と補償の両面で有効です。
まとめ
経歴詐称は人材不足のIT業界で潜在的に起こりやすく、発覚すると納期遅延や顧客離脱につながります。採用担当者は、
- 書類精査で矛盾を洗い出す
- 面接・技術試験で裏付けを取る
- リファレンスチェックを制度化する
- 契約書に違約条項を明記する
という四層の防衛策を実装することでリスクを最小限に抑えられます。
採用プロセスの改善を検討される際は、ぜひ参考にしてみましょう。